麒麟がくる

レクイエムは遠く

晩夏の庭から、蝉の声が溢れる。竹中半兵衛は紙に汗が滴るのもかまわず、文机に向かう。半兵衛が書き留めているのは、葬送の記憶だった。半兵衛が元服を迎えたころ、美濃国守護代斎藤道三とその子高政の間で争いが起きた。半兵衛の初陣は、そのときである。半…

太陽は沈む

太陽のようだと思ったこともあった。昔のことだ。兄、斎藤高政が急死したという報せが帰蝶のもとに届いた。突然の訃報であった。五月、織田家の屋敷の庭はどこまでも明るい。萌黄はしたたるような緑へと移り変わりつつある。濡れ縁に座っているとまだ暖まりき…