レッスン・1

※なんだかんだあってあの後現生地球人類体となったリピアー。
※現生人類体リピアーの外見は男性ジェンダーということ以外、特に設定していません。神永の同位体でも誰の姿でもお好きなように考えてくださると嬉しいです。(男性のすがたをしているのは神永といっしょがよかったから)神永と合体して変身するのかな…などと考えていますがそのへんは出てきません。禍特対では便宜上、リピアーと便宜上変身後のウルトラマンを呼び分けているようです(出てきません)
※リピアーも禍特対で働いているほか、その他独自設定もいろいろあります。

「この星の現生地球人類は、雌雄がつがいとなり家族という群れを形成することが多いようだ。ということは、神永は浅見君のことが好きなのだろうか」
禍威獣特設対策室本部・専従班室で自分専用の机と椅子についたリピアーが言った。視線は机の端のテトラポットの置物のひとつを見下ろし、声も心なしか沈んでいる。
「いやいやいやいや」
滝はキャスターつきの椅子ごと近づいて、リピアーの顔を下から覗き込むように見上げる。リピアーに自覚はないのだろうが、どう見てもしょんぼりとしている。それにしても、リピアーが人間の感情や表情の機微に明るくないのは分かっていたが、ここまでとは思わなかった。滝だってそういうことが得意とは言えないが、バディは恋愛対象とは限らない。数多くのSF作品が証明している。そもそも、神永にとって特別なのはリピアーなのだ。しかし肝心の神永と浅見が不在の現在、勝手にプライベートに口を出していいものかどうか。滝は助けを求めるように船縁に目を遣った。
船縁は、浅見がいなくてよかったと心からほっとしていた。浅見がいたら、「ハァ!?」から始まるバディ論と説教が始まっていたに違いない。神永と浅見がいないうちに誤解を糺しておく必要がある。しかし、どこから説明したものか。考えを巡らせていると、田村班長が席を立ってつかつかと向かってきていた。内心、助かった、と船縁は思った。班長が何度、こういうことを説明しなければならなかったのだろうと思うと心が痛んだが、船縁の知る限り班長の粘り強さはこういうときに強く発揮される。船縁は田村をアシストするために、二人の言葉に耳を傾けた。
「リピアー、きみのジェンダー及びセクシュアリティ観は古い!」
田村は言い放った。その迫力に、リピアーは少し、驚いたような表情をしている。
「書物から現生人類を理解しようとしたことには敬意を評するが、考えてみれば神永と融合していた頃から選書にだいぶ偏りがあるし、少し古いと思っていたんだ。明日うちからいくらか見繕ってくるから、それを読みなさい。きみなら半日もかからないだろう」
「了解した」
リピアーはまだ戸惑っているようだが、頷いた。船縁はちらりと、田村の左手の薬指の指輪を見る。田村は同性と結婚していて、10代の養子もいる。「うち」というのは、その子のために児童から思春期向けの性教育の本を所蔵していて、それらを持ってくるということだろう。
「わたしも専門書と論文をいくつかピックアップしておきます」
船縁は提案した。助かる、と田村が頷く。
「え、おれもおすすめのジェンダーSF持ってきていいですか」
「じぇんだーえすえふ」
リピアーはおうむ返しに言葉を繰り返した。机の縁にあった視線が上がって、黒い眼が好奇心にきらめきはじめる。
「本を読むのは好きだ」