方舟・2

最初の観測地の星は一面の砂漠だった。
ビュウビュウと強い風が吹いている。砂丘の砂が巻き上げられ、顔を打つ。果てしない砂地に波のような模様が生まれる。私とリピアーはウルトラマンの体でしゃがみ込んだ。砂を一つかみ、掬ってみる。ガラスか水晶よりももっときらきらと輝く、透明度の高い砂が、さらさらと手のひらから零れ落ちていく。
「リピアー。ここに、文明があったのか?」
砂漠や砂丘ならば地球にもある。しかし、地球の砂とはあまりにも異なる、怖ろしいほど澄んできらめく砂の堆積した砂漠は私の知る風景とは随分異なっていた。異星ならば景色が違って当然だろうが、私の知る生命の気配は感じられない。
「そうだ」
「どこかに、オアシスのようなものが存在したのだろうか?」
降着する前に見た星の姿を思い出す。この砂と同じ色の大陸が海に浮かんでいた。海と大陸、それは地球に似た組み合わせだったが、大陸は異様なほど白く輝いていた。
「いや、そうではない。この星には元々大規模な砂漠地帯は存在しなかった。かつて存在したこの星の住人は、生命の結晶化に成功した。それからまもなく大規模な戦乱が起こり、生命の結晶からエネルギーを抽出し、兵器として用いる技術が発明された」
私たちは立ち上がり、どこまでも続く砂漠を見つめる。白い地平線と青い空がくっきりと隔てられている。
「まず虫、ついで動物や植物が結晶化され、兵器になった。そのうち星の環境が悪化しはじめると、ますます戦争は激化した。非戦闘員が結晶化され、戦闘能力のある者はそれで戦い、……そして文明は滅んだ」
「この砂は、生命の結晶が風化したものなのか」
「そうだ」
私の問いにリピアーは頷き、言葉を継いだ。
「海にはまだいくらかの生物が残っているらしい。この星ではそれらのプランクトンの観測が、私たちの仕事だ」
「了解した。行こう、リピアー」
海まではさほど距離はない位置に降着していた。
私はインナースペースでリピアーの手を握る。リピアーは一瞬驚いて腕を引こうとしたが、私の手を握り返した。
「……神永。きみがいなければ、地球人類を知らなければ、私はこの光景をこれほど寂しいとは思わなかっただろう」
リピアーが呟いた。私は頷いた。
リピアーと出会わなければ存在を知ることもなかった星。この風景を忘れるまいと思った。リピアーとともに。
私たちはウルトラマンの肉体で砂を踏みしめ、海へ向かって歩きはじめる。遮るものがないので太陽光は非常に強烈だが、ウルトラマンの強靱な肉体は眩暈を覚えることもない。ただ、一歩進むたびに足の裏に砂の熱さを感じていた。

 

 

 

続き

 

「生命の結晶化」「兵器化」はマエダマヒロつながりです。FF:Uが好き。