きみはゲームに足るひと

外星人0号メフィラスは苛立っていた。自らの知性を以てすれば、原生地球人に狙い通りの言葉を言わせることなど容易いと考えていたのである。それをきっかけに地球人の上位存在として君臨することなど、簡単なはずだと。
しかし、メフィラスが抱いたのは、正確には苛立ちではなく、興である。たかが原生地球人の幼生体に興を惹かれていることが、メフィラスの戸惑いと愉しみ、そして己への呆れと苛立ちの原因だった。
「君たち原生地球人に信頼を与えやすい容姿を選んだつもりだったし、話術にも、自信があったのだけれど」
メフィラスはパンプキンラテ味のため息を、はあ、と聞こえよがしに吐き出した。
「きみはまったく、私の思い通りにならない」
サトルは飲んでいるのも今し方二人でコーヒーチェーンに立ち寄って購入したもので、秋季限定商品だ。サトルがストローを咥えている焼き芋ブリュレフラペチーノから、ずず、と音がした。サトルはどうやらほどんど飲みきってしまったらしい。ストローを唇からを離して、サトルは口を開いた。
「僕はメフィラスの本来の姿も好きだよ」
「でもきみは『地球をあなたにあげます』とは言わない」
「それとこれとは別じゃないか。でも、」
サトルが足を止めてメフィラスを見上げる。彼の通う学校と自宅の間にある道すがらの、コーヒーチェーンの駐車場の少し開けた土地を、夏の終わりの風が吹き抜けていく。
サトルが微笑むのを、メフィラスは見た。
「僕は外星人のことをよく知らないけれど、おまえほどうつくしいいきものはきっと、おまえとウルトラマンくらいしかいないよ」
メフィラスはラテのパックを手にした片手を目の上にかざし、その下で思い切り顔をしかめた。もう一度息を吐き、歩き出す。
「サトル君。そういうことは、地球人にも外星人にも、あまり言わないように」
「え? なんでさ」
「勘違いをさせてはいけないからね」
メフィラスの興は、確信に至りはじめている。

どうやら私は、大きな当たりを引き当てたらしい。