※Rー15
※直接的な性的表現はありませんが事後です。
※光の星のヒトについて独自設定多めです。
※リピアー人間態(姿は好きに想像してください)
神永は隣に横臥するリピアーの手の甲を撫でながら尋ねた。
「きみたちはどうやって種族を殖やすんだ?」
リピアーがぱちりと瞬きをして神永を見つめたので、神永は手を止める。
「…すまない、不躾な質問だっただろうか。気にしないでくれ。考えてみれば生殖は生物にとって弱点と成り得る。きみたちにとって、秘匿された情報であれば…」
「いや、そういうわけではない」
リピアーはかぶりを振って微笑んだ。するり、と白いカバーをかけた毛布が肩から滑り落ちる。神永は布団の端を引っ張って、自分とリピアーの肩を覆った。部屋は空調が効いていて少し乾燥しているくらいだが、こうしていて暑いというほどでもない。
「きみが私に興味を持ってくれたことが、嬉しい」
リピアーはふたたび触れられることを望むかのように、手を神永の前に差し出した。
「私たちの種族の生態については、いくつか秘するべき内容もあるが、話せる範囲で話そう」
神永はリピアーと手を重ねて、耳を傾けた。
「私たちには性別が存在しない。しかし、そうだな、敢えて地球の生物に喩えるならば、ベニクラゲが近いかもしれない」
神永はベニクラゲの姿を思い浮かべた。赤い核を中心にベル状の透明な傘と触手を有する小さな海月が、神永の脳内で海の中をふわふわと漂った。
「ベニクラゲは生物的に不死だと聞いたことがある。正確には、成熟した個体が幼生体に戻り、また成長するのだったか」
「そうだ。われわれの場合、そのサイクルに分化が含まれ、それがきみたちで言うところの生殖に近い。われわれは老いると光の星に帰還する。老いた体は、やがて巣となる。そこから新しく、幼生体が分化する」
「遺伝情報は親と同じ?」
「われわれに親子という概念はない。また、デオキシリボ核酸による染色体を有するわけではない。しかし、同じ巣から生まれた幼生体はみな、巣となった個体が有した情報を得ている。自分の記憶としてではないが、あらかじめインストールされた状態、といったところだ」
「なるほど、きみたちの種が個体として完成されているのはそのためか」
神永の指がリピアーの中指の付け根に触れた。リピアーはくすぐったそうに息を吐き、言葉を接いだ。
「同じ巣から生まれた個体は、一見するときみたちにとってのきょうだいや同族に近いかもしれないが、私たちはサイクルが長いため、出身の巣が異なっても個体差はほとんどない。ゆえに、私たちはいくらでも代替が可能だ」
神永はリピアーに指を絡ませる。リピアーの指先は戸惑うようにぴんと伸ばされたあと、おずおずと神永の指を握る。
「リピアー。俺たちには、俺には、きみという個体はひとりきりだ」
「われわれが個体で完成されていると称されることは確かにある、でも、だから、……」
きみのことが知りたいと思ったんだ。
リピアーはそれだけ口にして、肩で呼吸する。
あとはもう、指を絡めることに必死だった。
光の星のヒトの生殖(文化)については『AΩ』(小林泰三)の「一族」がモデルです。