もう誰も知らない話

かつて王国があった。王国には古い言い習わしがあった。王家に双子が生まれたならば凶兆、いずれ星は滅びるであろうと。しかし王国の民は争いを好まず、理知と慈しみを美徳としていた。因習は過去のものだった。だから嵐の日に生まれた王の子が双子だという報せが流れたとき、伝承を思い出す者がないではなかったけれど、人々の口にのぼることはごく少なかった。
民は双子の王子の誕生を祝福した。

かつて王国があった。王家には古い言い習わしがあった。王家に双子が生まれたならば凶兆、いずれ国は滅びるであろうと。赤子のうちに殺せというのがその内容であった。伴侶が双子を身ごもったと聞いたとき、王は動揺しなかったわけではなかった。しかし王は一人の死によって保たれる平和をよしとはしなかった。王は己に問うた。自らの子でなくても同じように思っただろうか。――そうでなければならない。王は誓うように答えた。嵐の日、双子は王家に無事に誕生した。王は伴侶とともに双子の息子たちを愛した。伝承は王子たちに知らされることはなかった。王は誓いを果たすべく、それまで以上に治世を善く行った。王国はますます富んだ。
繁栄を極めた王国は他星からの攻撃により突如、滅んだ。

 

炎の中で民や王は言い習わしを思い出し、自らに問うた。――悔やんでいるか?
――悔やむまい、と思い、彼らは死んでいった。
自らの理知と、慈しみを。
愛したことを。