K.Kオーグの頸の白さに、クモオーグは思わず手を伸ばした。K.Kオーグはクモオーグの自室のソファの隅に膝を抱えて座っていた。膝に頭を埋めるようにして俯いているため、クモオーグからは項がよく見える。睡っているのかもしれない。項は陽に灼けておらず、貝殻の実のようにやわく白く見えた。細い頸だった。クモオーグは名のとおり蜘蛛のように、音もなく忍び寄る捕食者のように彼の後ろに立った。両腕で、彼の頸を左右から捕らえる。じじ、と静かな部屋にジッパーの下りる音が響き、クモオーグは複腕を露出させた。下方の二本の腕でK.Kオーグの肩を摑む。
「……ね、クモ先輩」
寝入っているかに見えたK.Kオーグがおとがいを上げた。クモオーグは上方の二本の腕で、K.Kオーグの目許を覆う。
「起きていたのですか。K.Kオーグ」
K.Kオーグはそれには直接答えず、眼を覆われたまま、仰向けに、薄い唇の端をつり上げる。癖のない黒髪がクモオーグの手袋に触れる。
「ぼくのこと、殺したくなりました?」
K.Kオーグはうっとりと呟き、顎を小さく傾けた。唇をクモオーグの手首の内側をかすめ、ざわざわした感覚がクモオーグの胸にわだかまる。
「……ええ、とても」
クモオーグは黒い革手袋に覆われた手を開く。K.Kオーグの小造りな顔は、左右のこめかみを簡単に包み込むことができる。果実でも潰すように、クモオーグはゆっくりと手に力を込める。ギリギリと髪と皮膚越しに、こめかみの薄い骨の感触。
「ふ、ふ、ふ」
K.Kオーグはころころと、転ばせるような笑い声を零す。変身を解除していてもオーグメントの肉体は、ヒトのそれよりもはるかに頑強だ。K.Kオーグは逆さまの笑みを零す。顔は見えない。クモオーグはK.Kオーグの顔を見たことがない。だからクモオーグのなかで、K.Kオーグのヒトとしての面立ちは変幻自在に移り変わる。かつての自分に。いつかすれ違っただけの誰かに。いや、これは『彼』の顔だっただろうか。思い出せない。
「こうやって殺し合えたら最高ですね、せんぱい」
自らの膝を抱えていたK.Kオーグが抱擁をほどく。その手元のナイフがひらめくのを、クモオーグの眼はとらえた。