密会 2.0

 ちょうど昼休みの時間帯で、屋上は眩しく、立っているだけで汗ばむほどの気温だった。望遠鏡のレンズの度数を調整し、二十面相は教室を覗いている。南側から差す陽光が、子どもたちに降り注いでいる。給食を食べ終えた生徒たちは窓際に集まり、ひとりの少年を取り囲むようにして輪をつくっていた。少年が何か何か話すと、まわりの子どもたちも笑う。少年が秘密の話でもしているのか、少し身をかがめると、耳を傾けるかのように輪が小さくなる。
 子どもたちは、何を話しているのだろう? 学校や教師に関わることかもしれないし、あるいは新聞を賑わせるニュース、明智小五郎や、二十面相自身に関することかもしれない。
 しかし、実際のところ、二十面相は子どもたちの話題にはほとんど興味がないのだった。
 二十面相は望遠鏡を下ろした。
 おまえはいつも、と、二十面相は輪の中央にの少年に向けて呼びかけた。
 昼間の学校でも。黄昏時から夜、少年探偵団の団長として振る舞うときも、小林芳雄はつねに人に囲まれている。

「やあ、二十面相」
 聞き慣れた声に、二十面相は路地裏の入口を見遣った。声の主である、歳の割にも小柄な少年は、表通りの光を背にしていた。逆光になっているため二十面相は眼を眇め、少年に道を開けるように建物に背中を預けた。
「きみさっき、ぼくを覗いていただろう」
 少年は路地裏にするり、と滑り込んできて尋ねた。見下ろすと、少年の姿は今度は小さな影に似ている。「きみはいつも人気者だな。人を嫌うってことも、嫌われるってことも、知らないような面をしていやがる」
「きみはぼくを憎んでいるんじゃないのかい、」
 小林芳雄はさらりと言って、二十面相を挟んで表通りの反対側、路地裏の奥に立つ。二十面相と並んで、自身もコンクリートの壁にもたれ掛かった。
「ああ。きみと明智はおれの、かたきだからね」
 二十面相は答えながら、小林少年を見つめた。
 あんなに陽のひかりのなかにいて、誰も彼もに愛されている子どもが、ためらいもなく路地裏に飛び込む。二十面相には小林少年が不思議で、いつまでも飽きないのだった。