方舟・1

神永とリピアーが分離されず帰ウルの最終回のようにシン・ウルトラマンが地球を去ったIFです。

 

黄金の体に青い体色を有するリピアーの同族はゾーフィと名乗った。太陽系ひとつ焼き尽くすほどの力を御するリピアーの上司――上司、というのは現生地球人類である私、神永新二の解釈である――の力を以てしてさえ、私とリピアーの生命は互いに根を張り合い、もはや分かつことはできないということだった。奇妙な感覚だ。死、生命の融合を経て、私はリピアーと対話し続けていたから。私の意識はあるときは神永新二の肉体の中で、あるときはウルトラマンのうつくしい銀の体の裡にあった。私たちは肉体を共有しながらも意識は別で、最も近い他者だった。
現生地球人類の兵器化がマルチバースに知れ渡ったことに端を発する外星宇宙生命体との戦いは決着し、私とリピアーは禍特対の面々に別れを告げ、地球を去った。
光の星に到着してからも、私とリピアーの状況は変わらなかった。
彼(か)の星において生命の融合は重罪だという。重大な禁忌を破ってまで私の行動に興味を持ち、理解しようとしたのか。リピアーには改めて驚かされた。リピアーは咎を引き受けるつもりだったようだが、光の星の法に私を巻き込んだことをひどく悔やんでいた。「光の星の刑は、きっときみには耐えがたく長い」リピアーは呻いた。私はといえば、刑に怯えるよりもリピアーの苦しみを彼人から取り払いたかった。私とともに在ることを悔やんでほしくなかった。
けっきょくのところ、言い渡された罰は、ゾーフィの弁を借りると「驚くほど軽い」ものだったらしい。光の星の法体系は未だによく分からないままだが、リピアーと分離不能になった私の存在が、減刑の大きな理由らしい。私は巻き込まれたかたちと見なされたようだった。私とてリピアーとともに戦ったのだが。ともあれ、刑の内容は、「いくつかの星をめぐり、定められた数値を観測し、結果を報告すること」というものだった。それはリピアーが地球方面でおこなっていたことと大きく変わらないのではないか。そう尋ねると、リピアーは「文明が滅んだ星に行って観測をするんだ」と答えた。なるほど、と私は理解した。楽しい仕事ではないのだろう。しかし監視や拘束はともなわず、期間内に観測任務を果たすだけとも言えた。自律した行動が許可されているから、「驚くほど軽い」というのはゾーフィの言葉の通りなのだろう。
しかし、裁判を終えたリピアーの表情は固く、凍ったようだった。
「神永。この刑ではゲートの使用が制限される」
「移動が長期に及ぶ、ということか?」
「そうだ。おそらくこの刑が終わる頃、禍特対の誰も生きてはいないだろう。きみの知人は誰も、生きてはいないだろう……」
すまない、すまない。インナースペースでリピアーは俯き、血を吐くような声を発した。私は彼人に額を寄せ、手を握った。
衝撃が無いと表現すれば嘘になる。けれど。
「地球を去ったときに、覚悟していた。それに、」
浅見君、船縁君、滝、班長。局長。加賀美。みんなきみのことが好きで、寂しいんだ。きみだって寂しいんだ。どうかそう口にしてほしいと私は告げた。そうしてはじめて、私たちは寂しさを分け合えるように思ったのだった。

 

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